「テレビの向こうは、実は遠い世界ではない」文芸学科での書籍編集の経験を活かして、アニメ業界へ/アニメ制作進行?卒業生 鈴木龍之介

インタビュー

鈴木龍之介(すずき?りゅうのすけ)さんは、ガンダムシリーズをはじめ、数々の人気作品を手がけるアニメ制作会社?株式会社バンダイナムコフィルムワークスで作品の制作進行を担っています。鈴木さんが卒業した文芸学科は、映像制作の世界とは一見遠うように思えますが、大学での学びはお仕事でどのように活きているのでしょうか。

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「制作進行」は、実は「編集者」に似ている

――アニメの制作進行とは、どのようなお仕事なのか教えてください。

鈴木:ざっくり言うと「アニメの制作に関わる、スケジュールとお金を管理する仕事」です。

もう少し詳しく説明すると、作品をかたちにするために「どのアニメーターさんに、どのシーンの作画をお願いすればいいのか」「納期に間に合わせるために、スケジュールはどうするか」などを予算と相談しながら決めて、各所と連携する……といったイメージですね。

バンダイナムコフィルムワークス 鈴木龍之介さん
お話をお聞きした鈴木龍之介さん。

スケジュールを決めて、アニメーターさんに絵を描いていただいたら、随時回収して、どんどん次の工程につないでいきます。その先にあるセクションでも定期的に状況を確認して、ゴールである“納品”、つまりアニメを放送?上映できる状態にまでこぎ着けます。

制作進行はアニメを作る仕事ですが、ストーリーを考えたり、絵を描いたりすることはありません。でも、視聴者のみなさんへ作品を届けるために必要な“裏方”なんです。

――文芸学科に在籍しながら、どのような経緯で就活の際に「アニメの制作進行の道に進もう」と思ったのでしょうか?

鈴木:僕は元々、本の編集者を目指していたんですよ。

でも、就活中に手ごたえを感じていたとある出版社で、最終選考に落ちてしまい……。一度は塞ぎ込んだものの「やっぱり、エンタメ業界で働きたい!」という気持ちだけは消えなかったんです。そこでもう少し間口を広げようと思って、編集者以外の仕事も探してみたんですね。そんな折、バンダイナムコフィルムワークスが出していた制作進行の求人を見つけました。

それを見て「テレビの向こうの世界って、実はそんなに遠いものではないのかも?」と思って、採用試験を受けました。結果、ありがたく採用していただき、気づいたら今ここにいる、という感じですね(笑)

バンダイナムコフィルムワークス 鈴木龍之介さん

――編集者という職業から派生して見つけたのが、アニメの制作進行だったのですね。

実際にやってみても、「編集者と似ているな」と感じます。編集者は本を完成させて出版するために、納期から逆算してスケジュールを組んで、作家さんから原稿をいただくのが仕事です。それをアニメの制作に置き換えたら、制作進行の仕事になります。

※1 文芸学科教授。詳しいプロフィールはこちら
※2 文芸学科で編集している文芸誌。ほとんどの作業を学生有志による編集部が手がけ、年に1冊のペースで刊行。全国の書店やオンラインで実際に販売されている。詳しくはこちら

――このお仕事では、どんなときにやりがいを感じますか?

「コードギアス 奪還のロゼ」特報(バンダイナムコフィルムワークス チャンネル)

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』メインビジュアル
『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』

――お仕事で、特に印象に残っているエピソードを教えてください。

鈴木:『GQuuuuuuX』第7話で、納得のいく仕事をできたことです。

そもそも制作進行って、言ってしまえば“替えがきく”仕事かもしれない。でも、だからこそ僕は「“自分がやることの意味”を考えて仕事をしたい」と常日頃から思っていて。今の自分でそれを実現できたのが、この第7話ですね。

僕はこの『GQuuuuuuX』第7話の仕事をするにあたって、アニメーターさんが描く“動画”とよばれる絵を、8割以上は国内でまかなうことを目標にしました。なぜかというと、“動画検査”という確認工程を紙で行うことにこだわるためです。効率を重視するなら海外に外注するという選択肢がありますが、海外とのやり取りだとどうしてもデジタルになってしまうんですよね。なので、紙でチェックするためには国内のアニメーターさんに描いていただく必要があります。

バンダイナムコフィルムワークス 鈴木龍之介さん

でも、第7話は『GQuuuuuuX』の物語後半を盛り上げる戦闘回です。とにかくメカが動くしドラマも展開するのでカロリーが高く、今の時代のセオリー的にはデジタル動画で行うのが普通です。でも、だからこそ僕は「8割以上は国内でまかなう」ことは挑戦のしがいがある目標だと思ったんです。

東映アニメーションさんや京都アニメーションさん、Production I.Gさんなどいろいろなスタジオにご協力をいただいて、最終的に動画の8割5分ほどは国内で発注できました。これに関しては「自分じゃないとできない」という自負を持ってやっていました。僕が制作進行を担当する意味をちゃんと提示できたんじゃないかな、というところで印象に残っていますね。

『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』TV Series Promotion Reel(ガンダムチャンネル)

作家として学んだ経験があったからこそ、クリエイターの気持ちがわかる

――高校生のときに「芸工大の文芸学科を受験しよう」と思ったきっかけを教えてください。

鈴木:小説の執筆について、大学で専門的に学びたかったからです。僕は高校時代、文芸部に所属して小説を書いていたんですよ。だから元々はクリエイター志望だったわけですね。

ただ、入学後に編集の方面にも興味が出てきて、『文芸ラジオ』の編集にも携わるようになり、最終的には編集長も任せていただきました。最初はクリエイターを目指していたはずなのに、振り返ってみると編集の経験を積んでいた4年間でしたね(笑)

――文芸学科で学んだことは、現在のお仕事ではどのように活きていますか?

鈴木:先ほどお話ししたように、制作進行が編集者と似ているので、『文芸ラジオ』での編集経験や、授業で学んだ編集の知識などは割とそのまま活きています。

具体的には、たとえば『文芸ラジオ』の編集で実際にあった、作家さんとのコミュニケーションの感覚ですね。締切までに原稿を上げていただくために作家さんに連絡する必要があるのですが、それは制作進行でも一緒です。アニメの納品を間に合わせるため、締切までにアニメーターさんに絵を上げていただく必要があるので。

「急かされるのは嫌だろうな」というのもわかるんですよ。でも、仕事だから納品してもらわないといけない。編集者も制作進行も、そういった板挟みになるストレスは大なり小なりあります。その点僕は『文芸ラジオ』を経験していたから、板挟みにある意味慣れていましたね。

あとは、小説の書き方に関する授業も役に立っているんじゃないかな、と思っています。課題として小説を書いて提出しないといけなかったのですが「出さないと」とわかってはいてもなかなか筆が進まないときもありました。「小説か絵か」という違いはありますが、アニメーターさんもそれはきっと一緒ですよね。そういったクリエイター側のジレンマを経験したことがあるからこそ、アニメーターさんの気持ちを理解してコミュニケーションがとれていると思います。

バンダイナムコフィルムワークス

――今のお仕事を続けていくにあたり、今後どうなっていきたいですか? 展望を教えてください!

鈴木:自分がこの会社でできることを、探しつづけながらステップアップしたいと思っています。

というのも、今は仕事を終えるたびに「もっとこうすればよかった」という悔いが残るんですよ。最初に任せていただいた『奪還のロゼ』は言われたことをやるだけで精一杯だったので、その悔いを晴らそうと『GQuuuuuuX』の7話をやりました。結果、自分の中である程度納得のいく結果にはなりましたが、どちらも前任の方から引き継いだ仕事だったので、一から自分だけで担当したわけではないというのもまた事実なんです。

『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM ZERO』特報(ガンダムチャンネル)

――最後に、文芸学科を検討している受験生へメッセージをお願いします。

鈴木:受験と就活、両方に共通していることだと思うのですが、失敗を恐れずに「とりあえず挑戦してみる」というのはすごく大事だと思います。興味がある世界があったら飛び込んでみて、自分がついていけるかどうかはあとから考えればいいんですよ。

芸工大のある山形は、東京から見たら辺境のような場所と捉えている人もいますが(笑)、僕はそこで学んだことを今こうして活かして、好きなことを仕事にできています。 就活のときは、同じ面接会場に有名大学の方が何人もいました。そこで勝ち進んでここにいるわけですから、芸工大ではそういった方たちと戦える知識や経験を身につけられるということだと思います。

「好きなコンテンツに携われる仕事がしたい」「クリエイティブな世界で活躍したい」と思っている方は、ぜひ芸工大の文芸学科にチャレンジしてみてほしいです!

バンダイナムコフィルムワークス

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鈴木さんは芸工大在学中、卒業制作展の学科代表として文芸学科の展示をつくり上げた経験もあります。当時は美術科など、展示経験が豊富な学科の同級生のアドバイスを参考にしたのだそうです。
これを聞いて、「文芸学科のある美大」という芸工大ならではのエピソードだと感じました。文芸の型にはまらず、いろいろなことを吸収できるフィールドにいたからこそ、アニメ業界という進路につながったのかもしれません。

(撮影:永峰拓也、取材:城下透子、入試課?加藤)

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東北芸術工科大学 広報担当
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