
より受験生の興味や関心を広く受け止め、一人一人の可能性を最大限に引き出していきたい―。そんな思いから、東北芸術工科大学は2026年4月より、6つの新分野を加えた全19学科?コースへと進化します。多様な分野が呼応し合う新しいクリエイティブ教育は、世の中の多様なニーズに応えていくための力となるはず。そこで本学が目指す教育改革について、中山ダイスケ学長?酒井聡デザイン工学部長?長沢明芸術学部長の3名にお話を伺いました。

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創作活動を続ける=社会と接続するということ
――今回、学科再編を行うに至った理由を教えてください
中山:特徴のない大学は生き残れなくなっているこの時代において、「学びたい」という人のニーズにどう応えていくか。そして山形にある私学の、しかもアート&デザインを標榜する大学として次の10年をどういう形で進んでいくべきか。そこをきちんと考えていかないといけない、というのが最初でした。

中山ダイスケ学長
今の若い人たちはすごくいろんなコンテンツを見ていて、例えば「漫画が好き=アニメが好き」ではなかったりするんですね。「音楽が好き」と言ってもいろいろなジャンルがありますし、そうやってもっと細かく分野を見ていかなければいけない、というところからより細かなコース分けを考え始めました。

今回の学科再編で15学科コース→19学科コースへと拡充し、入学定員も43名増(構想中のものであり、変更される可能性があります)。 詳細はこちらから
――受験生にとっては、自分が好きな分野について学べる選択肢が増えたということでしょうか
中山:そうですね。芸工大は現役進学率が非常に高いため、まだ「ああなりたい、こうなりたい」というビジョンまでは持っていないにしても、「これが好き」ってところについてはすごくしっかりしている受験生が多いと感じています。また本学は学科やコースを併願することもできるので、より選べる入試にするための再編でもありますね。
――そんな芸工大で学んだ学生たちが、卒業後活躍していける場とは?
中山:今はクリエイティブ業界に限らず、世の中の隅々の仕事に次のアイデアが必要となる時代が来ています。ですから芸工大でデザインやアートを学んだ人が活躍できる卒業後の行き先は、“すべての仕事”ということになります。「こういうところにもデザインを勉強した人がいるんだ」とか、「面白い事業が出てきたと思ったら、芸工大を卒業した人がやっているのか」というふうになればいいなと思いますし、さらには子育てをしたり親の介護にあたったりしている時も、必ずデザインで勉強したこととか、アートで培った人の心の機微を知ることというのは役に立ちますから、もう人生そのものに役立つと言ってもいいでしょうね。

中山:そしてそれはテクノロジーの進化や時代の変容とも合っていて、昔は難しい機材がないと映像なんて撮れなかったのが、今は誰でも撮れますよね。たとえ小さな会社であっても、自社の映像を撮って自分たちでホームページに載せたりSNSに載せたりできるし、それは家庭レベルでも同じことで、もうすべてのパパ?ママがカメラマンであり編集者であり、それをSNSに載せれば発信者にもなれるという。そういうふうに世の中がビジュアル化したり情報化していく中で、クリエイティブを学んだ人というのはどこでも生きていけると考えています。
また芸工大は就職と直結しているデザイン工学部だけでなく、芸術学部も就職率が非常に高いんです。それは、自分のクリエイティブを続けるために仕事を持つということをシビアに考えているから。絵や彫刻や工芸といったものがそのまま職業になる人もいれば、それが生きるための糧になっている人もいて、みんな就職しても筆を折らない。そもそも絵を描いたりものをつくっている人は、社会と触れているからこそ筆が進むのであって、つまり働くというのは、ただ食い扶持を稼ぐということではなく“社会と接続する”ということなんです。
――確かに芸工大は、地域や社会に触れ合うことで成り立つ絵の描き方や作品のつくり方をされている卒業生が多いですよね
中山:それができるってすごいと思いますよ。昔の美大生にはできなかったんじゃないかな。
長沢:今の学生たちというのは、何かモチーフがあって描くだけではないんですよね。まずリサーチから入って、地域のことを知った上でそれをどういう方法で表現していくかっていうのをかなり前の段階からじっくり考えているので、誰とも触れずに作品ができるということはないと思います。

中山:面白いですね。なんか東京の青山とか銀座で展覧会をしてもアート関係者しか来なかったりするけど、山形のまちで展覧会をすると近所の人が見に来てくれるじゃないですか。だから芸工大の学生とか卒業生は自分の絵の話をするボキャブラリーが非常に豊富で、いつも頼もしいなと思って見ています。
酒井:デザイン工学部の学生たちも同じで、その作品にどういう背景があって、どういう課題を解決して、将来に向けてどんな幸福度や満足度を与えたいかっていうところを卒業制作展などでみんなしっかり語っています。でも実は他大学を見ると、人と話がしたくて自分の作品の前にこぞって立つというのはそんなにないことなんですよね。ですからああいう姿が見られるのは芸工大ならではだと思いますし、“伝える”という行為はデザインの根幹だと思っています。

――ちなみに、現役で活躍されている方々が指導陣に多くいらっしゃることも芸工大の大きな特徴になっていますよね
中山:ここ20年くらいでだんだんそうなってきました。山形は“物理的な距離”と“時間的な距離”とで、いろんな流れからどんどん乗り遅れてしまう可能性もあるので、芸工大の方針として教員は現役クリエイターでありたいなと。そしてそんな教員たちが自分の作風について悩んだり、新たなジャンルに挑戦し続けているリアルな姿を学生たちにも見てもらえたらと思っています。
ですから今回の学科再編も、現役クリエイター目線の「いま学ぶべき学科コース編成」をつくったものだと思っていただけると良いかもしれません。
【デザイン工学部】が目指す新しい教育の形
――デザイン工学部全体で目指している教育の形を教えてください
酒井:まず一般的にデザインというと、“いろ?もの?かたち”みたいに何か感性に寄ったようなものだと思われがちなんですが、私としては、“読み?書き?そろばん”の次に習うような、そういう基本的なものになってくれるといいなと。先ほど中山学長もお話されてましたけど、ただただデザイナーを目指すのではなく、どんな職業でもデザインの力を使って活躍できる人材の育成というのがすべての学科?コースで目指していくところだと思っています。
――デザイン工学部における今回の再編の特徴とは?
酒井:先ほど学長からもあったように、今って高校生も僕ら大人も、好きなものというのが結構はっきりしてる時代なんですね。特に映像に関しては、人の目から入ってくる情報もまたそのつくり方もすごく多様になっていますし。そうすると「自分はキャラクターが好きだから、そこを入口にして何か学びたい」とか、何かのアニメーションを見ていて「CGから入ってみたい」というような思いが出てくるので、きちんと一人一人の近いところに入口をつくってあげられたらと考えました。

キャラクターとかゲームって今や単純なエンターテインメントではなくなっていて、例えばICT教材を見ても、フルにゲームの要素があったりキャラクターがついていたりして、勉強が苦手な子でも触れ合いやすくなっていますよね。そういう社会的な課題解決の方法を考える上でも、今回の映像学科のようなコースの分け方があるべき時代なのかなと思います。

それから企画構想学科とコミュニティデザイン学科については、どちらも形のない“コト”のデザインをしていく専門領域でしたので、そこを一緒にして細分化し、新たに食文化デザインコースを設置しました。食が豊かな山形の風土から学べることって非常に多くて、例えば中山学長がデザインされた『山形代表』というサン&リブさんのジュースがありますけど、あれは傷がついてしまってそのままでは売れないような果物を“山形代表”として世に出してあげるっていう、まさに食文化のデザインなんですね。そういう新しいデザインのあり方を学んでいけるのが山形という土地ではないかと思っています。

中山:『山ラー』(※山形ラーメン)っていうキャンペーンをつくったのもうちの卒業生ですけど、あれもフードカルチャーのデザインの一つと言えますよね。山形県というのは本当に食材の宝庫なので、大学にいる四年間のうちに山形にある食材とすべて出会ってみるだけでも勉強になると思いますよ。この豊かな自然を活かした、最も芸工大らしいコースがようやく立ち上がったんじゃないですかね。しかもフードカルチャーはいろんな学科?コースともコラボレーションする形で絡めますから、将来的にはすごく主力になっていくコースだと考えています。
普段からよく酒井学部長と話しているのは、デザインとは思想そのものであるということ。消費されるモノやデザインよりも、人生とか社会そのもののデザインを考えられるような視野の広いデザイナーをここから育てていきたいですね。
【芸術学部】が目指す新しい教育の形
――芸術学部全体ではどのような教育の形を目指していらっしゃいますか?
長沢:まずAIとかハイテクとなるとファインアート系は大体アレルギーが起きるんだけれども、我々はそれを拒絶するのではなく、許容した上で新しい表現を開拓していくことにシフトしてきました。実際、彫刻コースでも3Dプリンタを使ったりしていますし、そういったものを一旦理解して、その上でじゃあ僕らがどういうアクションを起こすかっていうところが次のフェーズだと思っています。 あとは学科?コースごとに仕切っていくカリキュラムではなく、横断的に掛け合わせていくような授業をこれから増やしていく予定で、基礎を学んだ後、欲しいスキルを自分で選択して3年の前期で受講できるようなラインナップを今整えているところです。
――芸術学部における今回の再編の特徴を教えてください
長沢:もう少し間口を広げることができるんじゃないかということで、版画コースは「グラフィックアーツコース」、彫刻コースは「彫刻?キャラクター造形コース」と思い切って名前を変えてみました。

例えば“版画”っていうとちょっとアナログに聞こえていたと思うんですけど、使える美術としては実は一番ポテンシャルがあるんです。世の中に浸透しているもので言うと印刷物とか、いろんなシーン?場面で必ず出てくるような波及効果の一番高いツールなので、それをどう浸透させていくかというところですね。

中山:日本画コースとか洋画コースみたいに世界に一枚しかないユニークピースを描いてる人の横で、版画のようにひたすら複製することを楽しんでる人たちがいるっていうのが面白いですよね。あとSNS上に貼った写真が他の人の手に渡って行って、それをみんなで見せ合うっていうのもメタ的に見るとまさに版画で、そういう意味では今の子どもたちってものすごく版画世界に生きていると思うんです。この版画改めグラフィックアーツコースに入ればアナログな複製方法も学べるわけですから、自分が好きなものを他の人と共有する術をたくさん知っているというのはすごく素敵なことだと思います。
長沢:それから今回、歴史遺産学科と文化財保存修復学科を一つの学科にしたわけですけど、そこには、本学の附置研究機関である「文化財保存修復研究センター」をもっと有効活用していきたいという思いと、より濃く地域に密着していく上で歴史遺産学科の先生方に活躍してもらいたいという思いがあります。文化財保存修復研究センターにある機材の数々は遺跡の発掘などにおいても親和性を発揮してくれるでしょうし、文化財の保存修復を行う際も、その地域の歴史背景が分かることでより質を上げていくことができると思うので、お互いの存在が刺激になればいいなと。

中山:まさにその歴史っていうのも芸工大の一つ特徴的なところで、縄文の遺跡が出るっていうこの地域の特性もありますし、あとは民俗とか風土がたくさん残っていて、しかも山形はほとんど空襲を受けていないので、東京をはじめ関東や近畿では完全に燃えてしまった建築様式の建物が残っていたりするわけです。そういう古くからあるものとテクノロジーを組み合わせることで、面白いシナジーが生まれるんじゃないかなと思っています。
このAI時代にアート&デザインを学ぶ意味
――それでは最後にお一人ずつ受験生へメッセージをお願いします
酒井:アート&デザインなら「デザインが好きじゃないと」とか「何か描けないと」という時代から、今は“考え方”というところに移り変わってきています。さっき僕がお話したように、“読み?書き?そろばん”の次にデザインをしてみるというか、普段やっていることのその次にある可能性を開きたい時にデザインというものを学ぶと、本当に社会も世界も広く見ていくことができるようになるんですね。なので「今あるものをちょっと変えてみたいな」とか「今あるものを新しく感じたいな」みたいなことを考えてくれている高校生はぜひ本学で学んでくれると、より豊かな生活が待っていると思います。
長沢:芸術学部っていうと未だに「働けない」とか「仕事がない」っていうふうに思われがちなんですけど、我々が目指しているのはパラレルワーカーの輩出なんですね。制作活動と就職を切り分けるんじゃなくて、どちらも本業で行こうよっていう。生涯筆を持ち続けるとか、生涯研究を続けられるとか、そんな人材を育てていきたいと思っています。あらゆる職業に就けるんだっていうのはこれまでもモデルとしていろいろ示してきていますし、もし卒業後が心配ということであればそのサポートはちゃんと保証しますから、それをぜひ受験生だけでなく保護者の方にも伝えていきたいですね。
中山:受験生にとって、どこの大学に行くかというのは非常に大きいですし、大学選びって大変ですよね。「やりたいことも特に決まっていない、でも自分らしくありたい」と思っている人もたくさんいるはず。だからこそもっともっと10年先ぐらいのイメージで考えてみてほしいんです。AIがたくさん出てきていろんな仕事がオートメーション化してきている今、一体何が残るかと言ったら人の手でつくるとかそのAIの使い方を工夫するっていうところで、クリエイティブってまさにそういう分野なんですね。ですからそういう時代の中で進学先に芸術系を選ぶというのは正解だと思いますし、最も賢い選択だと私は思っています。

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全国の私立大学の約6割が定員割れを起こす中、本学では学科再編とともに定員増を行います。それが可能な理由として、中山学長は「この社会課題が非常に多い東北?山形という地域にクリエイティブの大学があるということが強みになっている」と言います。そんな芸工大が目指すのは、地域のラボになること。「これだけ専門のコースがあって、これだけ専門家が多く集まっている場所は東北でもここだけ。地域の知財であり資財になっていけたら」と中山学長。山形という土地?規模だからこそ可能なリアルな学び、そしてより広がった将来への選択肢を、まずはオープンキャンパスから体感してみませんか?
(取材:渡辺志織)
■オープンキャンパス情報
春のオープンキャンパス 2025年5月25日(日)夏のオープンキャンパス 2025年7月26日(土)?27(日)

東北芸術工科大学 広報担当
TEL:023-627-2246(内線 2246)
E-mail:public@aga.tuad.ac.jp
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